魔理沙と霊夢 feat.北風と太陽

「それはあれだぜ、『北風と太陽』っていうやつだろ」

 魔理沙は煎餅を齧りながら霊夢に言った。博霊神社縁側。傍らにはお茶、日差しは春。

 二人でいつものようにだべりながら時を過ごしているときだった。

「霊夢の話を聞いた限りじゃまさにそれだぜ」

「何よそれ、童話?」

 単語の聞きなれない組み合わせに霊夢が首をかしげる。

「なんだ霊夢、知らないのか? 顕界ではわりと有名な話だぜ」

「『北風と太陽』ねぇ・・・・・・寒暖の違いによる気象の変化?」

「うん、間違ってないけど間違ってるな」

 軽く流した魔理沙は意味を簡単に説明した。

 旅人の着る上着の効果的な脱がし方について考察したアレである。

 曰く、力で吹き飛ばそうとした北風よりも、そう仕向けた太陽のほうが賢いとか。

 そんな説明にじっと耳を傾けていた霊夢は最後まで聞くと、ふむと呟き、

「・・・で? って感じね」

「つれないなー。何かを達成するには効率的にやりましょうって話だぜ。教訓的じゃないか」

「あんたの口から、効率的とか教訓的なんて単語聞きたくないわね」

得意げに説明する魔理沙に呆れ顔で突っ込む霊夢。

「なんだよー、私はわりと言いえて妙だと思うぜ。よし、百聞は一見にしかずだ。見本をみせてやるぜ」

 見てなと、周囲を見回す魔理沙。

 見ると、境内へと上る階段につながる小径をこーりんが歩いていた。博霊神社が高台に建っているため、眼下の通りはよく見える。

「見てな、あそこでぼーっと歩いてるこーりんの上着を、今から太陽っぽく脱がしてやる」

「何よ太陽っぽくって」

「太陽のように効率よく脱がしてやるっててことだ、・・・・・・大体流れ出それぐらいの意味はわかるだろ」

 言いながら魔理沙が右手でスペルカードを構える。

「要は効果的に上着を剥ぎ取れるかっていう話なわけだ。冷たい風で吹き飛ばそうなんてせずに、暑がらせることによって自分から脱がせるように仕向けるってね」

「確かにそういう話だったけど。あんたが効率よくできるの? むしろ火力で押し通す北風、というより熱風タイプなんじゃない?」

「まぁ見てなって。よく狙って、出力を抑えながら・・・・・・それ『スターダストレヴァリエ』!」

 魔理沙が言うと、拡散した星屑がこーりんに向かっていく。そのまま周囲に展開しこーりんの逃げ場を無くす。

「見ろよ、これで逃げれなくなったこーりんは上着を脱ぐはずだぜ」

「何その理屈・・・・・・あんたね、別にその弾幕で暑くなるわけじゃないでしょうに」

「・・・・・・ま、まぁそれはいいんだ、暑さよりも周囲を埋めることで行動を促すという間接的な能動性というか・・・・・・こうね、上着を脱いで本気を出そうか的な・・・」

 などと魔理沙が言ってる間にこーりんは自力で弾幕をかいくぐり駆け出していた。

「ほら見なさい、全然だめじゃないの」

「おっかしーなー。脱いだ上着で体を庇ったりなんかすると思ったんだがな」

 本気で不思議がる魔理沙。

「んなわけないでしょ。いいわ、私がやってみる。本気の拘束を見せてあげるわ」

 言うと霊夢も同じようにスペルカードを構えた。

 どこからか狙われていると察したこーりんは、駆け出す。

「ほらほら、早くしないと逃げられちまうぜ」

「あんたが余計なことしたからでしょ! 追いかけるわよ!」

 言いながら飛翔。魔理沙もあわてて箒に飛び乗る。

 眼下を走るこーりんを射程に収めると、

「『夢想封印 縛』!」

 霊夢が叫ぶと光弾が帯状に迸り、こーりんを拘束。そのまま地面に引き倒す。

「よし捕まえたわ!」

 眼下にこーりんを見据えながら霊夢がガッツポーズをした。

「いやいやいやいや、趣旨変わってんじゃん。脱がせろよ」

 魔理沙がいろんな意味で怪しい突っ込みをする。

「いいのよ、ここから脱がせるのよ。ある意味効率的でしょ?」

「ある意味では効率的でも前提条件がいろいろと間違ってるだろ・・・・・・」

 そんな二人の下ではこーりんが拘束から抜け出そうともがいている。もっとも、霊夢の十八番である夢想封印をそう簡単に抜け出せるわけもなく、芋虫のようにうねうねとするにとどまっていたが。

「あれ、霖之助さんじゃないですか」

 と、道路脇の林から妖夢が出てきた。背中に大きなかごを背負っている。

 身動きが取れないこーりんを見ると慌てた様子で、

「ちょっとちょっと、大丈夫ですか ・・・というか何してるんですか?」

「ぁー妖夢くんか、いいところに。急に誰かに襲われてね。身動きが取れなくなったんだ。ちょうどいい、君の刀で切ってくれないか?」

 お安い御用です、と妖夢が楼観剣を抜いて、こーりんを縛っていた光を切る。

「いやー助かったよありがとう。自力では抜け出せなかったから、どうなるかと思っていてね」

「いえ、お力になれてよかったです」

 妖夢は楼観剣を収めながら微笑む。

「ところで妖夢くんは何をしてたんだい? そのかごは?」

「あ、これですか。幽々子様が山菜料理を食べたいと仰ったので、ちょっと採集をしてました。結構生えてましたよ。」

 見れば、かごの中にはアケビやゼンマイ、ワラビなどが詰まっていた。

「へぇー結構とれるもんだね、妖夢くんならさぞおいしい山菜料理にできるだろうさ」

「ありがとうございます。まだまだ修行中ですけど・・・・・・ そうだ、よかったら家でお茶でも飲んで帰りませんか? その間に調理して、差し上げますので今晩のおかずにでもしてください」

「おや、これはありがたい。じゃあお言葉に甘えてお邪魔することにしようかな。よっと」

 言ってこーりんは上着を脱ぎ、妖夢のかごを持ち上げる。

「代わりにこれは私が家まで運ぼう」

「あ、すみません。じゃあ上着お持ちしますよ」

 妖夢が上着を受け取るとお互いににっこりと微笑んで歩き出した。

 

「なにあれ?」

そんなやり取りを上から見てた霊夢が呟いた。半目でつまらなさそうである。

「さあな、新手のラブコメじゃねえの」

途中で急速に興味を失ったのか、魔理沙はあろうことか箒の上で横になって大あくび。

「結局、二人とも北風だったってことだろ」


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